くものしゅの日記

子育て中の ph. D.です。専門は確率統計.情報理論等

The Intelligence Trap なぜ、賢い人ほど愚かな決断を下すのか?という本の感想

という本、結構面白いです。この本、
賢い人でも愚か
ではなく、
賢い人ほど愚か
という内容で、
賢い人 ≒ IQが高く知識や経験も豊富な人
が陥る愚かさの実例が多数記載されています。
例えば、ノーベル賞受賞者だが宇宙人による誘拐事件等を信じたり(キャリー・マリス)、著名な作家だが心霊術、妖精が撮影された写真を本物と信じたり(コナン・ドイル)、賢い人の愚かさの実例が書いてあり、これだけでも面白いのですですが、本書では
認知心理学の「二重システム理論」
と呼ばれている方法で、賢い人が愚かになる原因を分析しています。
 
なぜ、賢い人ほど愚かになるのか?
本書の内容を元に、解説してみます。
まず、私たちの思考方法を、「直観的で無意識的な思考」と「分析的で意識的な思考」の2つに分類します。この2つを
  • システム1(直観的、無意識的な思考)
  • システム2(分析的、意識的な思考)
と呼びます。この2つのシステムのメリットとデメリットは次の通りです。
  • システム1を使う思考
    メリット:直観的に判断するので速く結論を出せる。無意識的だから疲れない
    デメリット:無意識的に感情の影響を受けて、間違った結論を出してしまう。
  • システム2を使う思考
    メリット:分析的に判断するので論理的な結論を出せる。
    デメリット:分析に時間がかかるので結論を出すのが遅くなる。意識的だから疲れる
「賢い人」は、システム1,2の両方とも優れている人のことです。
システム1が優秀な人とは、専門知識や実務経験が豊富な人でしょう。熟練した専門家はこれまでに蓄えた知識と経験で、直観的に判断できます。
システム2が優秀な人とは、IQが高くて論理的な人でしょう。地頭が良いとか、学歴が高いとか、そんな感じの人でしょう。
 
多くの人は「システム1」を使って迅速に結論を導き出し、「システム2」を使って結論の正しさを確認します。
  1. 直観的に結論を出す(システム1)
  2. 結論の正しさを確認する(システム2)
という順番です。
つまり、考えてから結論を出しているのではなく、結論を出してから考えているのです。これは、専門家も同様です。専門家は考えなくても正しい結論が出せるように訓練されている人です。専門知識や実務経験を積むことで、直観的な判断の正確度が高くなっているのです。とはいえ、専門家でも感情に引きずられて間違うことはあります。例えば、質問をたくさんする患者は医師から誤診されやすくなるそうです。質問が多すぎると医者の感情が害されて、無意識的に間違った判断をされやすくなるからです。(メモ:本書によると、マインドフルネス≒瞑想する、日記をつける、感情に名前を付ける等の方法で、この種の感情に起因する間違いを減らせます)。
ここまでは、システム1の話です。ここで注意してほしいのは
システム1(直観)は間違うこともある
ということです。
 
専門知識や実務経験が豊富な人ならば、直観的に正しい判断ができるようになりますが、それでも、間違うこともあります。そこで、重要なのはシステム2です。システム1の間違いをシステム2で訂正すればよいのです。
システム2の分析力を使って、結論の間違いを訂正すれば、正しい結論が出せるようになります。
以上をまとめると、
(知識経験が豊富ならば)システム1で直観的に正しい結論を出せるので、結論の正しさについては後からシステム2を使って考えればよい。
ということです。これが、迅速に正しい結論を出せる、「賢い人」の思考法です。
 
では、ここからが本題です。
なぜ、賢い人ほど愚かな決断を下すのか?
原因は、直観が間違うことがあるからです。直感的判断が間違っていたとき、「賢い人」は自分の誤りを認め辛い傾向があります。
賢い人 ≒ IQが高く知識や経験も豊富な人
は自分の判断に自身があるので、誤りを認め辛いのです。そして、自分の間違った直観を正当化しようとします。その際に、システム2(分析的、意識的な思考)が使われます。このとき、「賢い人」ほど愚かな状況に陥ります。なぜならば、
賢い人 ≒ IQが高く知識や経験も豊富な人
は能力が高いので、不合理な結論を正当化する理屈を思いついてしまうのです。
皮肉にも、知的能力の高さが不合理な結論を強化してしまうのです。この間違いは、知識を増やしても防げません。システム1とシステム2を別々に鍛えても不十分なのです。
以上をまとめると
賢い人ほど間違った直感を正当化する理屈を思いついてしまうし、自信過剰で自分の直感を盲信する傾向があるので、賢い人ほど愚かな決断を下す
ということです。
 
愚かな決断を防ぐには、直観(システム1)の誤りを分析力(システム2)を使い訂正する必要があります。自分の誤りを素直に認めること。知識不足を自覚し、反対意見に耳を傾けること。感情や直感から生ずるバイアスを訂正する必要があります。
 
謙虚さがあれば不合理な決断をすること未然に防げます。
賢い人でも謙虚さが必要
ではなく
賢い人ほど謙虚さが必要
なのです。
 
以上は
のごく一部を私なりに解説したものです。
 
最後まで読んでいただいてありがとうございます。