昔の京大の教養課程の講義の雰囲気が分かるような気になる、
そんな本があるんです。
「確率・統計入門」小針アキ宏 著、岩波書店
初版1973年。
著者は京都大学で確率統計の講義をしていた方で、
確率・統計の教科書として使われることを想定して書かれています。
恐らく、1年向けの講義が、この本に書かれているような内容だったのでしょう。
では、読んでみます。
1章1節 確率の概念。
たぶん、これが第1回の講義内容です。
「確率とは何であるのかを明らかにする」
ということが目的のようです。
1ページ目にコイン投げの話が書いてあります。
コインを投げて表が出るか裏が出るか、って話です。
気になるところを抜粋します。
`表が出る確率はいくらですか'という問に`1/2です'と答えてはいけないのであって・・・
あれっ?って思いませんか。
コイン投げは、表が出る確率1/2ですよね。
普通はそうです。
しかし、1/2と答えてはいけないと書いてあります。
これはびっくりしますね。
では、表が出る確率はいくらですかと聞かれたとき、
どう答えればよいのでしょうか?
この本には、こう書いてあります。
・・・`そんなことは、わからないので 1/2 としましょう。そう仮定すると実験とよく合うのです'と言うべきなのです。
そうですか。。。
納得できない方もいるかもしれないけど、
とりあえず了解、としましょう。
それでは、続きを見てみましょう。
3ページ目には、箱に玉を入れる話があります。
箱に玉を入れる入れ方は何通りあるのか、
という話です。
順列、組合せとか、そういう話です。
ちょっと難しい話だと思いますか?
いいえ、違います。
かなり大変なことになっています。
3ページに「マックスウェルーボルツマンの統計」
4ページに「ボーズーアインシュタインの統計」、
という用語が出てきます。
統計力学の話です。
これは大変です。
1年の確率・統計の講義の初日に統計力学が出てくると想像してみてください。
学生は統計力学をまだ習っていないはずです。
にも拘らず、統計力学を例にして「確率とは何であるのか」を説明するのです。
この段階で分からなくなってきます。
確率って何なんですか?って気になってきます。
でも、それでいいのです。
というのも、
高校までに習った確率に関する常識を打ち砕き、
確率とは何であるのかということを考えさせる、
ということがこの節の目的だからです。
よくある大学1年向きの教科書の場合、
高校までの知識で素直に読めるように工夫されています。
それが教育上の配慮というものです。
でも、この本は違います。
そんなヌルイことはしません。
高校までの内容に疑問を持たせる、ということを最初にします。
どんな分野にも、初めての人向けの「入門書」と
専門家向けの「専門書」の2つがあると思うんですけど、
この教科書は、
「専門家向けにしか書かないような内容を、初心者向けに書いてみた本」
のように感じました。特に1章はそうです。
こんな感じです。
この本の1章は難易度が高いです。
では、2章以降はどうか、
といいますと、
なんだかすごいです。。。
難易度がすごい、という訳ではありません。
1章が分からなくても、2章以降を理解することはできます。
安心してください。
では何がすごいか、というと、
著者の個性がすごい。
軽妙洒脱な文体で確率統計の解説がつづられています。
詳しくは本を読んでみてください。